新種カマキリだと思ったらAI製。市民科学に“存在しない生物”が混入

新種カマキリだと思ったらAI製。市民科学に“存在しない生物”が混入
Image: Nature Ecology & Evolution (2026)

見たことのない模様と体形を持つカマキリが、マレーシアの森で撮影された――。生物観察サイトへ投稿された写真は、新種のように見えました。しかし専門家が細部を調べると、その虫は生成AIが作った、この世に存在しない生物でした。

生成AIが作った鳥、実在する鳥、AI加工した鳥を比較した研究図
Image: Nature Ecology & Evolution (2026)

舞台となったiNaturalistは、世界中の利用者が植物や動物の写真と場所を投稿し、コミュニティーが種を識別する市民科学プラットフォームです。蓄積された観察記録は、生息域の変化や希少種の調査など、科学研究にも使われます。

2万6,000件を識別した目が止まった

偽画像を見抜いたのは、カマキリの専門家クリス・アンダーソン氏です。iNaturalistで2万6,000件以上の同定をしてきた経験から、枯れ葉に擬態するDeroplatys属らしい写真に違和感を覚えました。

頭の形、触角、体表の模様が、どの既知種とも整合しません。調査の結果、画像は生成AIによるものと判明し、投稿は削除されました。同氏は半年ほどの間に、偽のカマキリ観察例を二度記録しています。

鳥でも似た例があります。スコットランドでは非常に珍しいコガラの仲間の写真が話題になりましたが、足やくちばしの不自然さからAI画像と見抜かれました。

「きれいに補正」だけでも種を変えてしまう

問題は、丸ごとの捏造だけではありません。研究者が南米の実在する鳥の写真を生成AIに「もっと良くして」と頼む実験では、AIが翼に赤い色を追加しました。別種の特徴が勝手に描き足されたのです。

実際、AIで補正した写真がブラジルでのハゴロモガラス初記録として登録され、後に隠された例も報告されています。ノイズ除去や鮮明化のつもりでも、足指、羽、模様が生成されれば、観察証拠としての意味が変わります。

研究者とiNaturalist関係者は、画像認証、撮影情報の確認、AI利用についての教育、コミュニティーによる検証を提案しています。iNaturalistもAI生成コンテンツを報告する機能を加えています。

一方、AIすべてが敵ではありません。人が確認した大量のカメラ画像を分類し、専門家の作業を助ける機械学習は保全に役立っています。危険なのは、観察と生成の境界が表示されないことです。

世間の反応

偽生物はSNSの冗談で終わるとは限りません。位置情報付きの記録が研究、環境評価、保全計画へ流れれば、存在しない分布が政策判断に混ざります。ただし誤同定はAI以前からあり、専門家と参加者の検証文化こそ最大の防波堤です。

おもせかの一言

新種発見の第一声が「すごい」から「指は何本?」へ。自然観察にも、画像の出生証明が必要な時代です。

出典