150万年メスだけでも消えなかった。ナナフシが残した“不要な仕組み”

150万年メスだけでも消えなかった。ナナフシが残した“不要な仕組み”
Image: Moritz Muschick / University of Sheffield

使わない機能は、進化の中でやがて壊れて消える――。そう考えたくなりますが、約150万年にわたりメス中心の単為生殖を続けてきたナナフシは、オスに必要な遺伝子調整システムを今も動かせました。生物の体は、不要になったスイッチを意外なほど長く残すようです。

セコイアの上で擬態するTimema属のナナフシ
Image: Moritz Muschick / University of Sheffield

研究対象は北米西部に暮らす、翅のないTimema属のナナフシです。この仲間には、有性生殖をする種と、未受精卵から子が育つ単為生殖へ移行した種がいます。古い系統では、約150万年ものあいだ通常の交尾に頼らず世代を重ねてきました。

X染色体の「音量」をそろえる仕組み

多くのTimemaでは、メスはX染色体を二本、オスは一本持ちます。放っておけば、X染色体上の遺伝子が作る物質の量に大きな差が出ます。そこで生物は、一本しかない側の働きを高めるなどして発現量をそろえます。これが遺伝子量補償です。

オスがほぼいない系統では、この調整は長期間使われません。研究チームは、働く必要を失った仕組みが突然変異を蓄積し、弱くなっていると予想しました。

ところが、単為生殖のメスからごくまれに生まれるオスを調べると、遺伝子量補償は完全に機能していました。脳、腸、触角、脚など調べた七つの体組織すべてで、X染色体の発現量が適切に調整されていたのです。

使わなくても壊れない理由は一つではない

生殖細胞を作るときにX染色体の働きを抑える仕組みも残り、単為生殖系統のオスでは、その特徴がむしろ強く見える部分さえありました。研究は、異なる三回の単為生殖への移行を比べても同じ傾向を確認しています。

なぜ残ったのかは、まだ一つに決まりません。別の重要な機能と遺伝的に結びつき、片方だけ壊せないのかもしれません。ごく弱い選択圧が長く働いた可能性や、仕組み自体が変異に強い可能性もあります。

また、単為生殖の種でオスが絶対にゼロという意味でもありません。今回の分析は、そのまれなオスが生まれるからこそ可能でした。進化は常に無駄を省く設計者ではなく、壊す理由が弱ければ古い配線を残すことがあります。

世間の反応

「150万年使っていないのに新品同様」という見出しは驚きですが、遺伝子の仕組みには複数の役割が重なることがあります。単純な退化の法則が破れたというより、何が本当に“不要”なのかを見直す結果です。

おもせかの一言

生物の進化は、断捨離が苦手らしい。押し入れの奥から150万年前の機能を出しても、まだちゃんと動きました。

出典