なぜ月の神トトはヒヒとトキ? 答えは“月光色”かもしれない
知恵、文字、魔術、そして月をつかさどる古代エジプトの神トト。壁画では人の体にトキの頭を持つ姿で描かれ、ヒヒそのものの姿になることもあります。なぜ月の神に、この二種類の動物が選ばれたのでしょうか。研究者が毛と羽を測ってみると、意外な共通点が浮かびました。

米ダートマス大学のナサニエル・ドミニー氏と英セント・アンドルーズ大学のキャサリン・ホバイター氏は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館にある12点の動物標本を分光計で調べました。人間の目には「白」「灰色」に見える毛や羽が、どの波長の光をどれだけ反射するかを比べたのです。
銀色の背中は月光とよく似ていた
なかでも目立ったのが、マントヒヒの銀灰色の毛です。反射スペクトルは月光にかなり近く、とくに成獣のオスは白い頬の毛と銀色のケープ状の背中を持ちます。夜空の光を動物の姿に置き換えようとした人々にとって、印象的な候補だった可能性があります。
比較したオリーブヒヒの毛は、やや緑がかった反射を示しました。同じヒヒの仲間でも、月との結びつきを連想させる見た目はマントヒヒのほうが強かったわけです。
トキでも似た結果が出ました。古代エジプトで神聖視されたアフリカクロトキは、頭と首が黒く、胴体は明るい白色です。研究チームが比べた三種のトキのうち、この白い羽が月光に最も近い反射特性を示しました。
神話の答えを「色」から探す
動物が神の姿に選ばれる理由は、行動、生息地、鳴き声、季節変化など一つではありません。ヒヒが日の出に声を上げるように見えることや、トキのくちばしが三日月に似ることも、これまで説明として挙げられてきました。
今回の研究が加えるのは、古代人が見ていた光景を物理的な色から確かめる視点です。現代の色名だけでなく、実際の反射光を測れば、神話に込められた視覚的な連想を比較できます。
もちろん、スペクトルが似ているだけで「古代エジプト人は月光色を理由に選んだ」と証明できるわけではありません。当時の文書にその選定理由が明記されているわけでもなく、研究者も仮説として提示しています。それでも、ヒヒとトキという一見離れた二種を、同じ月の光が結びつけるのは魅力的です。
世間の反応
この研究のおもしろさは、神話を単なる空想として片づけず、毛と羽の測定まで持ち込んだ点にあります。一方で、色が似ることと宗教的意図は同じではありません。考古学、文献、動物行動の証拠と組み合わせてこそ、仮説はさらに強くなりそうです。
出典
- Phys.org: https://phys.org/news/2026-07-moonlight-fur-feathers-egyptian-god.html
- University of St Andrews via Phys.org: https://phys.org/news/2026-07-moon-baboon-insight-mind-ancient.html
おもせかの一言
月の神のモデル探しに分光計が登場するとは。神話の謎は、ときどき博物館の毛一本から照らされます。